ねこのひたい~絵日記室<ネタバレなしの映画評?>

 ~ネタバレなしでも、読めばガッカリ~

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『電車男』

副題に「A True Love Story」と銘打たれていますが、その真偽はさておき、ネット上で無料で全ログが閲覧できて、そのダイジェストが書籍として読めて、マンガ、舞台、テレビドラマへと増殖しつつある、公開一週目で興行収入第1位になった話題の映画です。

って、わざわざこのブログを読みに来て頂いてる方には、釈迦に説法ですね。
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映画とは関係ない話から始めちゃうようで恐縮ですが、その存在は知っていたものの、敢えて避けて通っていたそのログを、鑑賞前に斜め読みしておくことにしました。

目新しいのはその媒体がネットであることくらいで、古くは雑誌や新聞、ラジオでやってるような「人生相談」、最近でいえば「ロンドンハーツ」か「あいのり」、身近な例だと喫茶店やファミレスで隣の席から聞こえる友達同士の恋愛話を聞いてるような印象でした。
当事者である電車男から語られる出来事や葛藤なんて、恋をしたことがある人なら誰でも経験するようなことばかりなんですが、圧倒的でありエキセントリックな2ちゃんねるの住人(2ちゃんねらー)たちの発言が、その膨大な書き込みにより出歯亀性を超越(隠蔽?)して「伝説化」「神話化」へと転化させている、と書くとミもフタもないんですけど、だからって社会現象にまでなるのはいったいどうしたワケ?

ふと思ったのは、これって現代日本ではタブーになってる「階級差別」の物語じゃないか、と。
西洋における人種的階級、あるいは日本の封建時代における職業的階級。わかりやすく具体的にいえば、白人女性に惚れた黒人男性、武士の娘に惚れた丁稚。
日本でオタクがマスコミに注目されるのは犯罪者となったときであることが多く、それにより、世間からのオタクに対する認識は限りなく犯罪者に近いものとなりました。犯罪者予備軍であるオタクに対し、「エルメス」はハイソでセレブなブランドの代名詞であり、2つは水と油、対極的な存在です。
そんな二人が『エデンの彼方に』や『近松物語』のように悲劇にならないのは、『マイ・フェア・レディー』や『プリティー・ウーマン』、そして『デンジャラス・ビューティー』のように、影の協力者が存在するからなんですね。
さらに、オタクが自らの身分を偽って一般社会に溶け込むというのは、「水戸黄門」が越後のちりめん問屋を名乗って市井にまぎれる逆パターンという日本人にはとてもわかりやすい設定です。
オタクやネットという今風なキーワードだけでなく、そうした極めて古典的な骨格を持っているからこそ、受け入れられたんじゃないでしょうか。

それを映画は、どう料理しているのでしょうか。

映画版では、文字情報だけで成立していた世界に「顔」が与えられ、オリジナルの一人称の視点から解放されます。
映画館に来ていた客層は、10代後半から20代前半の女性が多数を占めていました。彼女らとってオタクとは理解不能な生物、まるで排泄物を愛でるフンコロガシといったところでしょうか。
つまり、映画版は「フンコロガシの世界でフンコロガシ同士がフンコロガシ語を駆使して語り合っている」オリジナルを、若い娘さんにもわかるような物語へと翻訳しているわけです(それゆえ、フンコロガシの生態を説明するところから映画は始まります)。

映画版では、電車男を応援する2ちゃんねらーにも「顔」が与えられます。
それが7人なのは、まぁ「侍」あたりの引用ねと軽くあしらっておけばいいとして、オリジナルでは2ちゃんねらーのほとんどが「Mr.名無しさん」なので読んでるこちらも当然男性ばかりだと思っていた彼らの中に、女性が2人含まれていることです。
しかも、的確な指示と励ましを与えるのがほとんど2名の女性だったりします。
それに比べて男どもときたら・・・。
ひきこもりだったり、漫画喫茶に入り浸ったりと、社会に順応できていない4名全てが男性です。もう1人の男性も、電車男からもたらされる紅茶、ワインといった情報をそのまんま模倣して、後述する「マニュアル」に対する弱さを露呈しています。
電車男も含め、さらには電車で酔っ払う大杉蓮も含めていいと思いますが、映画版で「顔」を与えられることにより、男たちは女性よりも下等な存在となっているわけです。

また、オリジナルでは事後報告とならざるをえなかった描写の多くが、映画内では回想シーンとしてではなく、リアルタイムで進行し、時系列の混乱を招かないように翻訳されています。
しかし、その翻訳が次第に差異を生み、その差異がオリジナルを撃つものとなってゆきます。
オリジナルは、電車男の心の葛藤はあるものの、エルメスとの恋はサラサラ成就してゆきます。ところが映画版では、2ちゃんねらーたちのアドバイスによる外観だけ取り繕ったマニュアルデートが、4回目でついに破綻してしまいます。しかも、破綻を修復しようとネットカフェに入り2ちゃんねらーの助言を仰ごうと奮闘しているところを、置き去りにされたエルメスが目撃することで、デートは中止に追い込まれます。さらに名誉挽回に、エルメスのために収集したパソコンのカタログを渡そうとしますが、そこで電車男は失意のどん底に突き落とされることになります。パソコンもネットも2ちゃんねらーも、電車男を助けてくれないどころか、状況を悪化させるばかり。
それを好転させるのは、パソコンのモニターに打ち出された文字ではなく、カタログに書き込まれた電車男の手書きの文字です。そして、電車男は外観を取り繕っていたものを文字通り全て脱ぎ捨てて、オリジナルとは別のクライマックスへと駆け出します。
このように、脚本は「フンコロガシ同士の馴れ合い」をどんどん排除して崩壊させてゆきます(しかし、演出はというと、クライマックスの秋葉原でのキスシーンを2ちゃんねらーの祝福の書き込みで埋め尽くすという暴挙で、脚本を台無しにしてますけど)。

そのあとに続くエピソードは、電車男を応援する2ちゃんねらーたちの後日談といった感じですが、それは「2ちゃんねらーのみんなも、電車男さんの幸せを、ちょっとだけおすそわけしてもらいました」だと思ったら大間違い。
そこでは、誰ひとりパソコンに向かう者はいません。2ちゃんねるは排除され崩壊したのです。仮想世界から現実の街へ飛び出しなさい・・・って、教育的というか、リハビリ的というか、ここまでやられると、説教クサイ。
しかも、この映画で引用されていた『マトリックス』が、現実世界と仮想世界のどちらをも肯定する境地にたどり着いたのに比べ、価値観が古クサイ。

もしかしたら、脚本家だけが、エルメスの存在を疑っていたのかもしれません。
オリジナルの中のエルメスは、恋愛シミュレーションゲームにでも出てきそうな内面を欠いたお人形さんのようで、リアリティーが感じられず、男には都合のいい存在かもしれませんが女性にとっては受け入れがたいキャラクターです。
登場人物をイキイキと描くことが商売の脚本家なら、そんな女性は描きたくないはずです。ましてや、女性脚本家であればなおさらです。
そう考えるとエピローグは、「そこから全てが始まった」ことを意味するのではなく、「そこだけで終わった」ことを示しているのかもしれません。


なんだかオリジナルとの比較ばかりでしたが、最後に技術的なことをひとつ。
今作はフィルムでなくデジタルカメラで撮影されてるんですけど、昼間のシーンはさほど違和感なく見れたんですが、夜の場面で光源が映り込んだときに粒子の粗さが目立って興を削がれます。
なので、夜の秋葉原に設定されたクライマックスが、ネオンや看板の光源ばかり気になってしかたありませんでした。


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コメント

素晴らしい考察

記事を楽しませていただきました。
脚本家に関することも納得。
それであのラストが生まれたわけですね~

フンコロガシでは韓国映画『ラブストーリー』を思い出してしまいました(笑)

  • 2005/06/16(木) 10:16:10 |
  • URL |
  • kossy #YaTS71PM
  • [ 編集]

奴隷

あたしならこんな男、奴隷にしてしまいます。

  • 2006/01/12(木) 00:11:57 |
  • URL |
  • 猫姫少佐現品限り #-
  • [ 編集]

猫姫さま

2ちゃんねるの住人に言われるがまま。
エルメスの言動に左右されるがまま。

こんな男なので、奴隷にされてても気付かないと思いますので、奴隷のしがいがなさそうですけど、それでも奴隷にしてみます?

個人的にはワイルドキャットを慣らすほうが、調教の喜びを感じるってもんですが(笑)、コメントありがとうございました。

  • 2006/01/12(木) 23:59:22 |
  • URL |
  • にら(奴隷管理人) #lcbXb0/Q
  • [ 編集]

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